環境関連

GTL燃料の特徴

  FT法における合成燃料は、その製造プロセスにおいて、合成ガスを生成する触媒の劣化を防ぐために、原料中に含まれる硫黄成分を除去しています。その結果、合成燃料は硫黄成分をほとんど含みません。また合成燃料は直鎖のバラフィン炭化水素であるため、芳香族(アロマ)炭化水素はゼロです。

  燃料性状としては、ガソリン留分、軽油留分のどちらでも製造可能ですが、ガソリン留分はオクタン価が低いため、自動車用燃料にそのまま使用することはできません。これに対して、軽油留分はセタン価が高く、硫黄分やアロマ分を含まないのでクリーンなディーゼル燃料として期待されています。

FT軽油

 GTL技術(FT法)により製造される軽油は一般にFT軽油と呼ばれ、セタン価が高く、硫黄分やアロマ分を含有していないことから、クリーンなディーゼル燃料としての利用に期待が高くなっています。他のGTL製品に比べて、商業的な実績があり、品質面での問題は無く、既存の流通インフラを使用できることから、特に石油製品と混合して利用する場合(南アフリカで混合して利用)には利用上全く問題がありません。

 (1) 排出ガス特性

 FT軽油は、市販JIS2号軽油と比較すると、セタン価が高い、密度が低い、高沸点側の蒸留特性が低く、比較的狭い蒸留特性になっています。

 FT軽油は、ディーゼル排気ガスの粒子状物質(PM)生成に影響を及ぼすとされるアロマ分を含まないため、従来の市販軽油に比べてPM排出量が少なくなります。またFT軽油は硫黄分を含まないため酸化触媒によるPM低減効果が十分に得られます。

 現在流通している軽油も硫黄分を除去することは可能ですが、その際かなりの追加投資が必要となってしまいます。南アフリカのFT軽油あるいはShellマレーシアのSMDS軽油はクリーン軽油として脚光を浴びており、欧米で単体あるいは石油製品のアロマ分、硫黄分を下げるための基材として利用されています。

 (2) 燃焼特性

 FT軽油は高セタン価により着火遅れ期間が従来軽油に比べて短く、燃焼期間はやや長い特性を持っています。一般的に着火遅れ期間の短縮は、燃料噴霧と空気との混合が不十分となるため、PMの生成要因となります。このため、FT軽油の要求噴射時期は、従来軽油よりも遅角側になります。また燃料噴射時期の遅角に対して、FT軽油では失火限界が高いことが分かっています。このことはNOx低減の手段として用いられる噴射時期遅角やEGR増量に対して、FT軽油は有利であることを意味します。

 (3) 潤滑特性

 FT軽油をディーゼルエンジンに利用する場合、エンジン部品などへの影響に留意する必要があります。特にディーゼル噴射系は高圧化の方向に進むと予想されるため、噴射系部品の信頼性の観点から燃料の潤滑性が問題となります。

 FT軽油の場合、アロマ分、硫黄分を含まないため、潤滑性は従来軽油よりも劣ることになります。もっとも、現在の市販軽油に使用されている潤滑性向上剤をFT軽油に添加することにより、現状の市販軽油並みの潤滑性を確保することが可能です。

 (4) ゴム材料への影響

 従来軽油に比べてFT軽油はゴム材料の物性変化が少ない(初期値に近い)ことが分かっています。特にゴム材料の体積変化(膨潤性)に関しては、燃料中のアロマ分が影響することが知られており、部品によってはあらかじめ膨潤を見込んだ設計をしている場合が考えられます。FT軽油はアロマ分を含まないため、体積変化の少ないことによるシール性の問題が可能性としてはあり得ます。